【上級編】BCP担当者必見!BCP策定手順と事例を詳しく紹介!

前半の「【入門編】BCP担当者必見!BCPとは?にプロが答えます!」に引き続き、BCPについて解説していこうと思います。上級編である今回は、BCPの策定手順とポイントを詳しく紹介していきたいます。

自社でBCP策定をお考えの方は必見の内容となっています。

1.BCP策定の手順とポイント

1-1.狭義のBCPと広義のBCP

事業継続計画(BCP)は、発災後の事業復旧と継続手順をまとめた事業継続策と、事業継続策を早期に進めるための事前対策を合わせた「狭義のBCP」に、発災直後の初動対応を加えた「広義のBCP」があり本書では、広義のBCPに基づき事業継続計画の策定方法について解説いたします。また、平時においてPDCAサイクルでBCPに取り組むことが重要であるとの観点から、事業継続マネジメント(BCM)として策定の手順とポイントの説明をいたします。

1-2.事業継続マネジメント(BCM)の各プロセス

下図に示す流れが、事業継続ガイドラインより引用した事業継続マネジメント(BCM)のプロセスとなります。

  1. 方針の策定(基本方針・実施体制の構築
  2. 分析・検討(事業影響度分析、リスクの分析・評価)
  3. 事業継続戦略・対策の検討と決定
  4. 計画の策定(計画の立案、策定、計画の文書化
  5. 対策及び教育・訓練の実施(事前対策、教育・訓練)
  6. 見直し・改善(点検・評価・経営者による見直し、是正改善、継続)

以上のプロセスをPDCAサイクル同様に回してゆきます。

しかしながら、上記フローの途中で取組みが停滞しているケースが散見されます。「BCPは作ったのだが、その先が進まない」「経営幹部の協力が得られない」「BCPメンバー以外にどのように伝えたらよいか解らない」などの悩みをお聴きする企業は、計画の文書化で活動が終わってしまい、演習や見直しが出来ていない状態といえます。また、BCPの文書化が出来ているものの事業影響度分析が不十分なため、事業継続の内容が具体的でないケースも見受けられます。

具体的に申し上げますと、重要業務の絞り込みが弱いために、目標復旧時間と目標復旧レベルが設定出来ていないケース。この場合、いつまでに、どれくらいのレベルでどの業務を復旧させるかが明確でないため、復旧に必要な経営資源(例えばどの部署の人員が何人、必要な施設や設備)が不明となっています。

言い換えると、いつまでに誰がどのように何をするか、が検討できていない事業継続計画となります。そのような内容で、従業員の方々に説明をしても「災害が起きた時、避難したあと、どうすればいいのか」「私の仕事はどうなるのか」といった疑問を産み出すことになってしまします。

それでは、BCPの策定の手順について説明いたします。

1-3.基本方針の策定

基本方針の制定
まず基本方針を策定するにあたり、経営者の方を中心に策定メンバーは自社の事業及び自社を取り巻く環境を改めてよく理解し、自社が果たすべき責任や、自社にとって重要な事項を明確にすることが必要となります。具体的には、自社の経営方針や事業戦略に照らし合わせ、社内外の利害関係者(取引先、株主、従業員等)や社会一般からの自社の事業への要求・要請を整理します。

これらに基づき、自社の事業継続に対する考え方を示す基本方針を策定します。例えば、災害に対して従業員および従業員家族への支援、社会的な責任、得意先や協力会社への責任、業界での地位の確保や受注・入札を有利にするため等、何のために事業継続計画(BCP)を策定するのかを検討し、経営者が決め周知する内容が基本方針なのです。

そのために、自社にとって重要な利害関係者にはどのようなところがあるのか、自社がBCPに取り組むことによって利害関係者にはどのようなメリットがあるのかを明確にします。自社の事業を取り巻く利害関係者を洗い出すことで、BCPの対象とする重要事業(中核事業)の決定や事業継続策の検討を進めやすくなります。

利害関係を検討するうえで、顧客及び自社、関連会社、派遣会社、協力会社などの役員・従業員の身体・生命の安全確保や、自社拠点における二次災害の発生の防止は、最優先と考えます。また、地域への貢献や共生についても、可能な範囲で重要な考慮事項として取り上げることも重要です。

そして経営者はこれらに基づき、自社の事業継続に対する考え方を示す基本方針を策定します。あわせて、事業継続の目的やBCPで達成する目標を決定し、BCPの対象とする事業の種類や事業所の範囲なども明らかにしていきます。

基本方針の策定と同時に、分析・検討、BCP策定等を行うため、その実施体制、すなわち、BCP策定推進の責任者及び事務局のメンバーを指名し、関係部門全ての担当者によるプロジェクトチーム等を立ち上げるなど、全社的な体制を構築することが望まれます。今後、取組が進み、BCPを策定した後も、この体制を解散させず、事前対策及び教育・訓練の実施、継続的な見直し・改善を推進するための運用体制に移行させ、BCMを維持していくことが重要となります。

ここでメンバーの選定においての注意点をあげてみます。前述で全社的な体制といたしましたが、BCP取組がうまく進まない例として、防災を担当する部署や管理部門のメンバーだけで推進するケースを例として説明します。一般的に本社に在籍する管理部門の方は会社全体の事を御存じの方が多く、防災担当の方々は日常的に防災の対応をされて豊富な経験と知識をもっておられます。

しかしながら、事業継続の対象事業を復旧ならびに事前の対策を検討するとなると、現場業務の「実態」や「細かなところ」が日頃の担当する分野でないため、往々にして「事業復旧に必要な業務」の検討や資料作成を現場部門の方々に依頼するケースが見受けられます。現場業務を担当する者にとって「全てが必要な事項」と考えるのが普通の心理です。自分たちが毎日苦労している仕事はすべてが重要な業務となります。つまり、現場から上がってくる内容は、平常時の状況と何ら変わらないものになってしまいます。

BCPの策定において会社や組織を全て復旧させるのではなく、被災した状況の中で「どの事業」に対して「人・モノ・カネなどの経営資源」を集中させるかが重要なポイントとなります。言い換えるなら、会社の中でどの事業が重要なのかを選択できるのは経営者となるわけですから、BCPの策定には経営者の「意思」と「判断」が不可欠となるのです。そのうえで、選択した事業を早急に復旧させるために必要な業務と経営資源をどの手順で進めるか、それがBCPでまとめる事業継続策となるわけです。そのために、検討に適するメンバーを選び推進することが重要となります。

1-4.事業影響度分析

基本方針が決まると、次にBCPの対象とする事業を選定します。前述にもありますが、何らかの危機的な発生事象(インシデント)により自社の施設が大きな被害を受けたり、重要な事業のサプライチェーンが途絶したりすれば、平常時に実施している全ての事業・業務を継続することは困難となり、重要な事業に必要不可欠な業務から優先順位を付けて継続または早期復旧することが求められます。

そこで、事業影響度分析(Business Impact Analysis, BIA)を行うことにより、企業・組織として優先的に継続または早期復旧を必要とする重要業務を慎重に選び、当該業務をいつまでに復旧させるかの目標復旧時間と復旧レベルを検討します。自社の各事業が停止した場合に、その影響の大きさ及びその変化を時系列で評価します。

具体的な方法としては、製品・サービスの供給が停止(または相当程度低下)した場合の影響を、時系列にできるだけ定量的に評価し、自社にとって重要な製品・サービスを特定するとともに、それぞれがどのくらいの供給停止期間(供給低下期間)に耐え得るかを検討します。その場合、影響度のポイントは以下の項目を参照します。

  • 利益、売上、マーケットシェアへの影響
  • 資金繰りへの影響
  • 顧客の事業継続の可否など顧客への影響、さらに、顧客との取引維持の可能性への影響
  • 従業員の雇用・福祉への影響
  • 法令・条例や契約、サービスレベルアグリーメント(SLA)等に違反した場合の影響
  • 自社の社会的な信用への影響
  • 社会的・地域的な影響(社会機能維持など)

上記の影響度を考慮して優先的に復旧・継続すべき事業を絞りこむと、次にこの重要な事業に必要な各業務(重要業務)について、どれくらいの時間で復旧させるかを「目標復旧時間」(Recovery Time Objective, RTO)として、どの水準まで復旧させるかを「目標復旧レベル」(Recovery Level Objective, RLO)として決定し、また、重要業務間に優先順位をつけます。

次に、事業全体の目標復旧時間と目標復旧レベルを達成するために必要(重要不可欠)な重要業務を洗い出し、業務ごとに目標復旧時間と目標復旧レベルと必要な経営資源を検討します。この場合、まず平常時の業務フローと経営資源一覧(経営資源抽出シート)および業務マニュアルや作業マニュアル(ISO9001等)を参照すると業務をもれなく容易に洗い出すことができます。

重要業務を検討する上で、先に作成した利害関係者分析や経営資源抽出シートを使う事で自社の組織に加え外部協力会社(仕入先、外注先、委託先、人材派遣、アルバイト)が日常の業務に深く関わっている現状が見えてきます。つまり、重要業務を実行するには自社の従業員や設備・機器・システムだけでなく外部協力会社も復旧・継続する必要があることが理解できます。

ここであらためて述べますと、現状の業務に潜む問題点の抽出をし、対策を行う事は有事(災害)への備えだけでなく、現在の経営に活かすことが出来るということです。BCPへの取組みによって明日の利益を生み出す強化につながる、と言われる所以のひとつです。日頃、見逃している問題点をBCP策定のメンバーにより抽出することが可能となると言えます。

1-5.リスクの分析と評価(リスクアセスメント)

事業影響度分析と並行して、自社が優先的に対応すべきリスク(発生事象(インシデント)の種類など)を把握するため、リスク分析・評価を行います。「どのような危機的な発生事象」に直面しても重要業務を継続する、という目的意識を持って実施するものであり、そのため、事業影響度分析は、発生事象の種類によらず実施します。

しかし、実際に取り組むためには、企業・組織を取り巻く発生事象によるリスクがどのようなものであるかを理解し、優先的に対応すべき発生事象の種類やその被害水準(例えば、地震であれば予想震度など)を選ぶことが必要となります。特に、対策の検討を行うためには、想定した発生事象によるリスクを個別に想定することが重要となります。

ただし、このような検討に際しても、「様々な発生事象に共通して有効な戦略・対策が望まれる」ことを意識しておくことが重要です。そして、事業継続マネジメントの継続的な改善の中で、想定・対応する発生事象の種類やその被害水準をより広く設定することを目指すことが望ましいです。一つの発生事象を想定した事業継続マネジメントで満足し、他に懸念される発生事象へ想定を広げる改善を先送りすると、事業継続マネジメントの持つ可能性を十分に生かせないことになります。

リスクの分析・評価は、次のようなステップで進めます。

①発生事象の洗い出し

自社の事業の中断を引き起こす可能性がある発生事象を洗い出します。
この洗い出しについては、極力発生し得る全てのものを考慮します。

②リスクマッピング

①で洗い出された発生事象について、発生の可能性及び発生した場合の影響度について
定量的・定性的に評価し、優先的に対応すべき発生事象の種類を特定し、順位付けます。

③対応の対象とする発生事象によるリスクの詳細分析

②で優先的に対応すべきと特定した発生事象により生じるリスクについて
自社の各経営資源や調達先、インフラ、ライフライン、顧客等にもたらす被害等を想定します。
これは、事業影響度分析で選定した重要業務に対して行うのが通常です。

具体的には、特定した発生事象によって、当該重要業務について把握した重要な要素が、現状(すなわち、対策の実施前)において、どのような被害を受けるかを検討します。

そして、その重要な要素を確保するために現状で要する時間を推定し、その重要業務が現状ではいつまでに復旧できるか(=現状で可能な復旧時間)、どのぐらいの業務水準で継続・復旧できるか(=現状で可能な復旧レベル)を推定します。

このように、リスクの分析・評価は、事業影響度分析と合わせて進めるのが望ましいと言えます。

2.発災直後の緊急時対応計画の策定

2-1.緊急時の体制と役割

1-1 で述べたように、広義のBCPには発災後の対応(緊急時対応計画)が含まれます。

企業・組織は、不測の事態に対応するべく、事業継続のための緊急的な体制を定め、関係者の役割・責任、指揮命令系統を明確に定め、また、その責任者は、経営者が担うことが望ましい。また、重要な役割を担う者が死傷したり連絡がつかなかったりする場合に備え、権限委譲や、代行者及び代行順位も定める必要があります。緊急時には非日常的な様々な業務が発生するため、全社の各部門を横断した、事業継続のための特別な体制を作ることが望ましいと言えます。

また、災害時の初動対応や二次災害の防止など、各担当業務、部署や班ごとの責任者、要員配置、役割分担・責任、体制などを定めることも必要となります。

緊急時の対応手順は、重要業務を目標復旧時間内に実施可能とするために定めるものであり、その目的意識を強く持ち続ける必要があります。また、事象発生後においては、時間の経過とともに必要とされる内容が当然変化していくため、それぞれの局面ごとに、実施する業務の優先順位を見定めることも重要となります。

初動段階で実施すべき具体的な事項のうち、手順や実施体制を定め、必要に応じてチェックリストや記入様式を用意することが望ましい項目は上記例を参照いただきたい。なお、これらの事項の実施について時系列で管理ができる全体手順表なども用意しておくとスムーズな対応が期待できます。

上記の手順や体制のポイントについて、具体的な項目を例示して紹介いたします。

3.事業継続戦略・対策の検討と決定

3-1.事業継続戦略・対策の考え方

事業継続戦略における検討の視点は、重要な事業に必要な各重要業務の目標復旧時間・目標復旧レベルの達成を目指すものですから、これら重要業務に不可欠な要素、特にボトルネックとなる要素をいかに確保するかを検討することになります。

その方向性として、第一に、想定される被害からどのように防御・軽減・復旧するか、そして、第二には、もし利用・入手できなくなった場合にどのように代わりを確保するか、の二つの観点が主なものとなります。これを例えば拠点について当てはめると、前者が「現地復旧戦略」となり、後者が「拠点の代替戦略」といえます。

事業継続戦略の検討に当たっては、優先的に対応すべき発生事象(インシデント)を念頭に置いて行うものの、事業継続マネジメントは「どのような危機的な事象が発生しても重要業務を継続する」という目的で実施するものであることも考慮することが重要となります。この点から、自社に生じた事態を原因事象(例えば地震)により考えるのでなく、結果事象(例えば、自社の○○拠点が使用不能)により考え、対応策を検討することが望ましいと考えます。また、個々の重要な要素について代替を確保する代替戦略が幅広い発生事象に対して共通して有効となる可能性が高くなります。そこで、現地復旧戦略等とともに、代替戦略は必ず考えるべき戦略といえます。

例えば、代替戦略によって自社で代替拠点を確保すれば、地震、洪水、火災、テロなど幅広い発生事象に共通して効果が高いため、危機全般を考えた対応策として有効性が高くなります。ただし、代替戦略には課題もあります。例を挙げれば、現在の拠点と同等の生産能力を持つ代替拠点を持つのは平常時の費用や採算性の面で容易でなく、多重化が難しい場合も高くなります。そこで、代替拠点の場所だけを決め、設備投資せずに立ち上げ訓練のみ実施する方法、同業他社と災害時に相互支援を合意する方法など、実現しやすい方法を考えることが重要となります。さらに、早期に現地復旧できれば最も事業継続しやすいのは明らかであるため、現在の拠点における復旧戦略と代替戦略の双方を検討することが適切である場合が多いのです

このような面も含め、事業継続戦略の実現のための対策には、平常時から、ある程度費用をかけなければならない場合が多いのは事実であり、経営者としてどこまで費用をかけるかの判断が重要となります。

実例は少ないですが、他社との提携などによって費用を抑える対策もあり得ます。一方で、これらの対策により、緊急時の製品・サービスなどの供給が期待できるため、取引先等からの評価、新たな顧客の獲得や取引拡大、投資家からの信頼性向上など、多くのメリットにつながることも重要なポイントです。

そこで、企業・組織は知恵を絞り様々な選択肢を検討し、費用対効果を十分に検討しながら戦略・対策を選んでいくことが重要となります。

経営者の方々は、事業継続戦略とそれに基づいて実施する対策を決定し、その内、それぞれの重要業務の目標復旧時間及び目標復旧レベルについては、実現可能で対外的にも説明できるものとして、正式に決定します。

なお、今後の見直し、継続的改善の実施を念頭に、分析から戦略・対策の決定に至った根拠、経過の資料、選択理由等は、記録として保持しておくことが大切であることは言うまでもありません。

3-2.検討のポイント

①重要製品・サービスの供給継続と早期復旧

達成すべき目的の柱は、一般的な企業・組織で考えれば、自社の重要事業、すなわち、重要な製品・サービス供給の継続または早期復旧であります。そこで、事業継続戦略を検討する場合、この目的をどのように達成するかが、まず着手する点となります。

また、事前に実施すべき対策等の費用や準備に要する期間、発災時の実施にかかる費用や必要となる経営資源の確保の可能性等も考慮しなければならない点と言えます。

なお、基本的にリスク分析・評価で特定した一つの危機的な事象(インシデント)により発生する被害を想定して作業を進めていきますが、可能な範囲でこの被害の想定には段階を付けて(例えば、軽微、甚大、壊滅)、それぞれに戦略及び対策を検討することがより実践的です。

事業継続戦略・対策の選択肢の例を挙げると以下のようになります。

A.業務拠点に関する戦略・対策

  • 拠点(本社、支店、支社、工場等)の建物や設備の被害抑止・軽減
  • 拠点の自社内での多重化・分散化(平常時に他の拠点でも生産を行う場合に加え、場所だけでも決めておき被災したら早急にラインを立ち上げる等の方法もあります)
  • 他社との提携(OEM、アウトソーシング、相互支援協定の締結等)
  • 在宅勤務、サテライトオフィスでの勤務

B.調達・供給の観点での戦略・対策

  • 適正在庫の見直しや在庫場所の分散化による供給継続
  • 調達先の複数化や代替調達先の確保(ただし、複数の調達先における同時被災や、

2段階以上先の調達先が同一となり、そこが被災する場合にも留意)

  • 供給先・調達先との連携(在庫持ち合い、調達先の事業継続能力の把握、BCM実施要請・支援、事業継続に関する共同訓練の実施、さらに先の調達先企業の事業継続能力の把握要請等)
  • 代替調達の簡素化(汎用部品の使用など設計仕様における考慮等)

C.要員確保の観点での戦略・対策

  • 重要業務の継続に不可欠な要員に対する代替要員の事前育成・確保(クロストレーニング、新規雇用等)
  • 応援者受け入れ(受援)体制・手順の構築、応援者と可能な範囲で手順等の共通化
  • 調達先や連携先におけるBCM支援のための人員の確保

②企業・組織の中枢機能の確保

緊急時には、平常時の業務では求められない全体的な情報収集や分析、迅速な意思決定と指示、情報発信等の業務に関する必要性が相当高まることが想定されます。

その中で、企業・組織の本社などの重要拠点が大きな被害を受けた場合、中枢機能が停止する可能性がありますが、それは企業・組織にとって事業継続上の重大な制約要因となるため、これを防ぐ戦略・対策が必要となります。

本社(または自社の中枢機能を担っている拠点)の現地復旧戦略として、建物・施設に対して想定する発生事象(インシデント)からの被害を軽減する対策を講じることは、最も基本的な戦略であり、従業員等の生命・身体を守る観点からも重要です。しかし、何らかの被害により本社が使えなくなることも必ず想定すべきであり、代替戦略として、同時に被災しない拠点を代替拠点として確保する必要があります。

さらに、企業・組織の中枢機能とは、経営者を含む対策本部、財務、人事、広報等の各部署に担われるものであり、それらが機能するために不可欠な要員、設備等の経営資源が確保されなければなりません。そこで、緊急参集及び迅速な意思決定を行える体制や指揮命令系統(代理体制等を含む)の確保を行うとともに、特に通信手段、電力等の設備、ライフライン確保の対策が必要となります。

不測の事態に直面したとしても、企業・組織の活動が利害関係者から見えない、何をしているのか全くわからないといった、いわゆるブラックアウトを起こすと、取引先が代替調達に切り替えるなど、自社の事業継続に不利な状況が進む恐れがあります。

復旧可能性の情報を発信できずに時間が経過すると、社会的責任を果たせないことにもつながります。

このような状況を防ぐため、取引先、顧客、従業員、株主、地域住民、政府・自治体などへの情報発信や情報共有を行うための自社内における体制の整備、連絡先情報の保持、情報発信の手段確保なども必要となります。

③情報および情報システムの維持

今の社会では、重要業務の継続には、自社における文書を含む重要な情報及び情報システムを被災時でも使用できることが不可欠と言えます。重要な情報についてはバックアップを確保し、同じ発生事象(インシデント)で同時に被災しない場所に保存することが必要です。 また、重要な情報システムには、必要であれば(特に、汎用的でなく特注のシステムである場合には)バックアップシステムも求められ、それを支える電源確保や回線の二重化を確保することも重要でとなります。なお、情報のバックアップについては、平常時に使用している情報データが失われた場合に、どれくらいの期間のデータ損失を許容するかを慎重に検討して決定し、それに基づいてバックアップの取得頻度を決定することが重要といえます。また、代替設備・手段から平常運用へ切り替える際に、データの欠落や不整合による障害を防ぐための復帰計画も重要であり、平時に情報システムを社外のIT企業に委託している場合、復帰の手順や操作方法を会社の情報部門が理解できていないケースも見られます。

④資金の確保

企業・組織が被災すると、収入が減少または一時停止する一方で、給与や調達先等への支払いは継続しなければならず、資金繰り(キャッシュフロー)の悪化が懸念されます。また、被害の復旧や代替拠点の立ち上げ等のため、臨時的な資金がかなり必要となります。さらに、被災時の資金確保のみでなく、平常時の事前対策のための資金も重要です。

そこで、企業・組織にとって、資金的及び財務的な対応が必要になります。このため、企業・組織自身が、日頃から危機的事象に対応するための最低限の手元資金を確保するよう努めることを推奨いたします。

4.事業継続計画の策定

4-1.事業継続計画(BCP)

ここであらためて、事業継続計画(BCP)は、従来、BCMとほぼ同じ意味で使われることが多くありましたが、危機的事象の対応計画を指しています。これには、被災後に、重要業務の目標復旧時間、目標復旧レベルを実現するために実施する戦略・対策、あるいはその選択肢、対応体制、対応手順等が含まれます。BCPにおいては、特定の発生事象(インシデント)による被害想定を前提にするものの、BCMが「どのような危機的事象が発生しても重要業務を継続する」という目的意識を持って実施されることも認識し、被害の様相が異なっても可能な限り柔軟さも持つように策定することが望ましいと言えます。さらに、予測を超えた事態が発生した場合には、策定したBCPにおける個々の対応に固執せず、それらを踏まえ、臨機応変に判断していくことが必要です。これらを含め、BCPが有効に機能するためには、経営者の適切なリーダーシップが求められるのです。

4-2.緊急時の対応手順

緊急時の対応については、2章(発災直後の緊急時対応計画の策定)で述べていますので、詳細については省略します。

初動対応が落ち着いたら、事業継続対応に移行します。この対応を行うに当たり実施すべき事項のうち、手順や実施体制を定め、必要に応じてチェックリストや記入様式を用意すべきものを、以下に例示します。また、これらの事項の実施について時系列で管理ができる全体手順表なども用意しておくと効果的です。

4-3.事前対策の実施計画

策定した事業継続計画を実施するために、平常時から順次実施すべきもの(いわゆる事前対策)について、必要に応じて詳細な内容を詰め、実施のための担当体制を構築し、予算確保を行い、必要な資源を確保し、調達先・委託先を選定する必要があります。

そこで、これらについて、その実施スケジュールを含め、具体的な「事前対策の実施計画」を策定します。実施することが多い主な事前対策としては、以下に例を挙げてみます。特に、決定された目標復旧時間、目標復旧レベルを達成できるようにする前提として早急に実施すべきとされた事前対策は、実施が遅延しないよう十分留意する必要があります。

4-4.計画の文書化

策定した計画については、必要なものは確実に文書化します。計画内容を確実に実施し管理するため、また、教育や担当者の引き継ぎ等のためには、計画が文書化されていることが必要です。ただし、どこまで詳細に文書化するかについては、企業・組織として適切に判断すること重要です。

企業・組織全体としてBCMを進めている場合、必要に応じ、部門や拠点別、役割別にも計画書として文書に落とし込むことが重要となります。また、実際の作業を円滑にするために、マニュアル、チェックリスト等も必要に応じて作成します。

一方で、文書は継続的に最新の内容として維持していかなければならないものです。 また、実際の被害が想定と異なる場合、BCPの内容を柔軟に応用する必要性を考慮すれば、文書の重要性はその緻密さにあるのではなく、対応者の行動を有効にサポートすることにあります。いずれにせよ、文書化自体が目的とならないよう、十分に注意することが必要です。

さらには、緊急時に使用するBCP(の一部)、マニュアル等は、対応者に配布するため携帯型BCP(サバイバルカードとも呼称)を作成し、常に活用できるよう適切に管理させることが重要です。

すでに事業継続計画を策定した企業や組織の中で重要事業の手順が記されていないケースを散見することがあります。重要業務の遂行に必要な部署が時間の経過ごとにどのように関係するのか災害対策本部を含め部署ごとの時間フロー、そして部署ごとに必要な経営資源と対応手順と作業の注意事項、作業を円滑に進めるために事前に注意しておくことなどをマニュアル化しておくことで、業務の主担当が不測の事態で対応できない場合の代替人員の作業指示書として活用することが可能となります。

5.教育・訓練によるBCP文化の定着

5-1.教育・訓練の必要性

BCMを実効性のあるものとするには、経営者をはじめ役員・従業員に事業継続の重要性を共通の認識として持たせ、その内容を社内に「風土」や「文化」として定着させることが重要です。BCPを紙面や社内向けHPなどに記載して周知するだけでは、全ての関係者が実践できると考えるのは現実的ではありません。継続的な教育・訓練の実施が不可欠となります。

具体的には、対象者に、BCMの必要性、想定される発生事象(インシデント)の知識、自社のBCM概要、各々に求められる役割等について習得させ、認識や理解を高める教育を行い、さらに、訓練を実施する必要があります。

訓練の目的は、

  • BCPやマニュアルの検証(これらの弱点や問題点等の洗い出し)をすること
  • 対象者が知識として既に知っていること(バックアップシステムの稼動方法、安否確認等)を実際に体験させることで、身体感覚で覚えさせること
  • 手順化できない事項(経営者の判断が必要な事項、想定外への対応等)について、適切な判断・意思決定ができるようにする能力を鍛えること

などとなります。

また、有事にはマニュアル等を読んで理解するだけの時間的余裕がないことも多いため、有事の対応業務の実施にはBCPやマニュアルを熟知した要員をあらかじめ育成しておくことが重要となります。

さらには、有事の事業継続においては地域や調達先、協力会社、政府・自治体、指定公共機関等との連携が必要となる可能性が高いため、関連する他の企業・組織との連携訓練も実施することが効果的とであると言えます。

5-2.教育・訓練の実施方法

教育・訓練には、講義、対応の内容確認・習得、意思決定、実際に体を動かす等、対象や目的に合わせて様々な教育・訓練を行うことが重要です。実施のタイミングは、定期的(年次等)に行うほか、体制変更、人事異動、採用等により要員に大幅な変更があったとき、さらに、BCPの見直し・改善を実施したときに行うのが望ましいといえます。

いずれの教育・訓練方法についても、その有効性を評価するため、目標を明確に定め、その達成度を評価する方法をあらかじめ決めておくことも必要です。

教育・訓練を実施した結果、発見された弱点、問題点、課題等について、経営判断を待つ必要がない実務的なものは、点検・評価を経て是正を行います。経営判断が必要と考えられる重要なものは、経営者による見直しを経て、BCM事務局等による評価・検討の上、経営者と議論して判断を仰ぎ、必要な是正・改善を行うこととなります。

策定したBCPによって重要業務が目標復旧時間や目標復旧レベルを本当に達成できるかを確認する必要があります。まず、達成の前提として実施が決まっていた事前対策の進捗を確認し、その効果が発揮されるかを確認(試験)することが重要です。さらに、例えば、復旧に必要な資機材がBCPに定めた時間内に調達できるか、情報システム停止に備えて手作業で業務処理を行うと定めている場合、その業務処理量が計画通りであるかなど、達成可能性を左右する事項を調査することも有効です。

また、緊急時には調達可能な経営資源は限られると想定されますが、その配分の妥当性において、BCP策定段階では十分判断されていない懸念もあるので、広い視野で全体を見据えて検証することが大切です。

BCMにおいては、人事異動や取引先の変更等による当然必要な修正が行われているかの点検が定常的に必要な事項となります。また、事業所、製造ライン、業務プロセス等の業務実施方法の変更、新製品・サービスの提供開始、新たな契約締結などの事業の変化、利害関係者からの要求、法令改正などの環境変化、その他様々な要因に対して、BCMが合致しているか、必要な変更が行われているかの視点からも点検・評価を行うことも重要です。さらには、取引先の点検等、サプライチェーンの視点で点検・評価を行う事も重要です。

内閣府より連携訓練の手引きが平成25年3月に公表されています。弊社はBCP策定を支援する上で、お客様企業1社だけを対象にした取組ではなく取引先を含めたサプライチェーンの視点での事業継続の重要性を「SCCP, Supply Chain Continuity Plan」と名付けて推進しております。

経営者、BCM事務局、さらには企業・組織全体は、BCMが自社の経営方針や事業戦略、BCMの基本方針、目的等に照らして適切なものであるか、BCMの適用範囲や対象リスクなどが妥当なものであるか、また、事業継続戦略や対策が有効なものであるかなど評価し、これらの観点から継続的に改善していかなければなりません。

この継続的な改善は、BCMのあらゆるプロセスで行われることが望まれます。このため、経営者及びBCM事務局は、BCMの重要性を役員・従業員に共通の認識として持たせ、自社の「風土」や「文化」として定着させ、さらには関係する主体との連携も図って、事業継続能力の維持向上を不断の努力として行っていくことが重要です。

6.BCP策定手順とポイントのまとめ

BCPの基本的な知識と策定の手順、ポイントを述べてきました。入門編としてセミナーでご説明してきた内容を書面で読んでいただき、ご理解いただけたか不安も残りますが、定期開催しているBCPセミナーでは、約半日で本書の内容を実際に体験いただき好評をいただいております。是非、ご参加いただきBCPの策定ならびに既に作成されている皆さまの会社のBCPの見直しの機会に活用いただきますようお願いいたします。

7.BCPの事例

配送ドライバーの機転が全社に好影響をもたらす

大雪の際に、中央道 談合坂SAで山崎製パンの配送ドライバーが、立ち往生している他のドライバーたちにパンを配布した一件が注目を集めました。Twitterなどでは、山崎製パンの対応を賞賛する投稿が大量に見られ、山崎パンを買うといった投稿もたくさん見られました。

株価が急上昇したという話も見かけましたが、実際に2014年2月17日(月)の株価を確認したところ、前日比5%高程度のようですので、急騰は大げさではあるものの、一定の上昇にはつながっているようです。

個々の従業員による無料配布は全ての企業が追従すべきか

この一連の経緯を見て、自社の社員にも同じような対応をするように指示を出そうと考えた経営者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。

しかし、以下のようなことは考慮してありますか?

  • 山崎製パンのケースでは、商品が無価値化したという判断に店頭での販売までのリードタイムを考慮していたと見られますが、貴社では判断が遅れて消費期限切れになるようなことはないでしょうか。
  • 一度配布を行ってしまうことで、今後の災害発生時に、貴社はまだ配布する必要がないと判断している状況のうちから、配布を強要されるようなことはないでしょうか。
  • SAの売店で貴社製品を販売していて、当日も十分な在庫があるということはないでしょうか。また、その確認は可能ですか。
  • 無料配布してしまった後で、想定していたより早く通行が可能になるようなことはないでしょうか。また、その判断を的確に行うための準備がありますか。
  • 混乱した状況の中で、トラブルを誘発せずに、適切な配分、手順で配布するための準備ができていますか。

たまたまで全てがうまくいく可能性は高くない

緊急時にその場で一から判断して適切な行動をとることは、簡単なようで難しいです。山崎製パンでは、無料配布を認めていることについて日頃からドライバーに周知しているだけでなく、上記のような点について予め検討し、指針を持っていたのではないかと想像します。この美談は、たまたまで生まれたわけではなく、日頃からの準備が発揮された結果なのではないでしょうか。

貴社は想定外の脅威をたまたま乗り越えられることを期待しますか

BCP(事業継続計画)についても同様で、現場は日頃から業務をしているプロなのでBCPなどなくても何とかするだろうと考える経営者の方々のお話をたくさんお聞きするのですが、本当に大丈夫でしょうか。

緊急時に平常と変わらない能力を発揮できる従業員はまれであると思われます。日頃できていることができなくなるかもしれない状況下で、貴社は従業員がその場で考えた判断に企業の運命を託しますか。

BCPがなくても企業が存続できることもありますし、BCPがあっても存続できないこともありますが、圧倒的に有利にはしてくれるのではないでしょうか。

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