ERPとは企業がもつ資源であるヒト・モノ・カネの状況を可視化し、最適化をはかり、効率よく使うための概念をシステム化したものです。
受注・売上などの販売管理や、発注・仕入などの購買管理、生産計画や生産実績・在庫などの生産管理、財務会計や人事給与といった業務ごとに分断されていた取引先情報や製品情報など各種データを統合データベースで一元管理し、各業務の状況をリアルタイムに把握しながら経営資源を効率よく回してゆき、業務効率の向上や利益拡大といった目標に向けて導入します。しかし、事業の成長や拡大に向けてスタートしたはずのERP導入プロジェクトが、当初立案したスケジュール期限を大きく遅延しても稼働の目処が立たなかったり、導入プロジェクト自体が頓挫するケースが散見されます。
今回はERP導入に失敗する原因を事例を踏まえて捉え、よくある失敗のケースと失敗しないための対策を考察してゆきます。

1.ERP導入失敗の原因とは

1-1. プロジェクト求心力が低い

ERPの導入は中堅や大企業に関わらず、大変大きなプロジェクトになります。現場の社員が、忙しさや新しい仕組みを覚えることへの不安を解消できないことを理由に、現在の業務やシステムを変えたくないと主張したり、主張しないまでも不満を抱えた状態になることがあります。この不満や反発をうまくまとめ、関係者をプロジェクトの推進に巻き込んで初めて成功に至るのです。
したがって、ERPの導入に失敗しないためには十分な知識を持ってリーダーシップを発揮できるリーダーの存在が不可欠です。CIOやCTOなど、情報分野の専門的な知識を豊富に持ち、導入後のあるべきビジョンを先頭に立って提示し進められる人材をリーダーに据えプロジェクトを成功へ導きましょう。

1-2. 導入を全てベンダーに丸投げしている

中小企業で多いケースとして、導入を全てベンダーに丸投げするケースが珍しくありません。情報システム部門が、システムの構築や運用を外部に丸投げしている傾向が強い会社は、ベンダーの方が自社の業務内容やシステムの知識も豊富なため、ベンダー主導でプロジェクトが進んでしまい、担当者がプロジェクトを十分にコントロールできない状態に陥るリスクがあります。
IT人材不足にある企業でもERP導入では「自社でプロジェクトを推進する」といった気概が欠かせません。自社の業務をきちんと理解しているのは他ならず導入企業がだからです。
ERPの導入を成功させるためには、自社の業務を深く理解しているプロジェクトリーダーがリーダーシップを発揮しながら、適切な導入のロードマップを描いてくれるベンダーやパートナーと密にコミュニケーションを取りながらプロジェクトに関係のある全ての人を一つのチームと考え導入を推進してゆくことが何よりも重要です。

1-3. 導入の目的が明確化されていない

ERPの導入にあたり、目的を明確化しておく事は大変に重要であるとともに必須条件です。ERPを導入する目的が曖昧なままだと、不要な機能を実装してしまったり、逆に必要な機能が無かったりと、可用性が低く無駄の多いシステムになるリスクがあります。
また、導入自体が目的となってしまい、導入後の体制まで考えられていないなど、導入後の運用における責任の所在が曖昧だと現場が機能不全に陥る可能性があります。
まずは自社の現状課題をしっかりと洗い出し、それらの課題に対しERPでどうアプローチしていくかをプロジェクトチーム全体で検討してみましょう。

1-4. 部門間のコミュニケーションがとれていない

ERP導入による業務効果のひとつは組織横断的な情報連携の実現です。全部門の情報を統合されたシステム上で管理できるので、部門間情報の透明性を実現できます。
ただし、単純にERPを導入しただけで部門間の活発な連携が実現できるわけではありません。ERP上の統合データベースでどれほど情報共有が容易になっても、所属するメンバーどうしが積極的にコミュニケーションをとらなければ意味がありません。
統合された業務プロセスデータから相関性を見い出し、改善や業務効率向上に活用してはじめてERP導入効果があがるのです。

2.ERP導入失敗事例と対策

2-1.運用体制の調整不備による失敗

ERP導入には従来業務のやり方や流れを変革して、事業プロセス全体の効率化や利益拡大を実現する大きな目的があります。しかし、プロジェクトに対する理解の浸透や体制の準備が充分に整えられていなかったことで、自部門の業務に選定したERPが適合していないという誤った評価と認識が浸透してしまい、次第に使われなくなった結果、非稼働状態に陥ったケースがあります。
対策:ERPの導入検討段階から、導入により担当業務がどう変化し、どのような導入効果が見込めるのかを明確にし、プロジェクトメンバーに周知徹底します。そのうえで、業務体制を整えERP受入態勢をしっかりと築いておきます。

2-2.現場実務者の使い勝手軽視が招いた失敗

冒頭でも述べましたが、ERPは販売管理や、購買管理、生産管理、財務会計や人事給与といった企業経営に必要な各システムを包括的に提供するソリューションです。
各々の管理システムの親和性が完全に連携が取れているので、事業全体の業務効率化やリアルタイムにデータを可視化して経営判断に活用できるといった導入効果があります。
ただし、その実現性は組織全体にERPが浸透出来ることを前提としています。実際は多くのケースでERP運用が現場に定着できない現象が起こっています。生産管理業務の導入フェーズでよくある事例で、現場で生産実績の入力が浸透しないという話を聞きます。ERPに業務を合わせる意識付けを徹底するあまり、現場社員のユーザビリティを軽視した結果、使いづらいと判断されいつまで経ってもERPの活用が進まないといったパターンです。
対策:こちらの課題解決には要件定義工程での詳細定義が大変重要になります。
KickOff資料に要件定義に臨む基本姿勢を明記し、機能ベースで実施の要否を協議し、最適なユーザビリティを構築する必要があります。
基本姿勢につきましては資料をご用意させていただきましたので、以下のダウンロードより「要件定義工程でのお願い事項」を入手いただき、ご参照ください。

3.ERP導入成功のポイント

3-1.自社の課題の明確化

ERPの導入を検討する場合、必ず何らかの課題があります。自社の課題がどこにあるのか事前にしっかりと把握して、導入の目的を明確にすることで、過不足のない自社の業務効率を最大化したシステムが導入できます。
また、ERP導入にあたっては、自社の業務が標準機能をそのまま活用できる業務プロセスであることが理想です。
業務フローが効率的ではないといった業務課題は、ERP導入では解決しません。ERPで対処できる範囲を明確にしながら、業務プロセスを整理してシンプルな状態に調整するとともに、導入を予定しているERPに業務システムを合わせるといった施策を進めるべきでしょう。

3-2.投資対効果を予測する

ERP導入によりどれくらいの投資効果が見込めるのかを予測をするにあたり、ROI評価が有効です。ここで重要な事は、ERPの導入によって得られる利益が導入費用を上回っていることです。
ROIは継続的な指標として使うことが推奨されており、一度きりの評価では有用な情報を得られません。導入後も定期的な評価を行うことで、ERP導入が自社にどの程度の費用対効果をもたらしているかの見極めが可能になります。
ERP導入によって得られる利益は、ERPそのものの質だけでなく、それを運用する体制によっても左右されます。導入当初は現場のトップや担当者主導でROI評価を行っていたものの、時間の経過とともに計測をやめてしまうケースがよくありますが、導入後も少しでもERPを有効活用しようと業務フローを見直す企業の方が利益を向上させやすいのは明白です。

3-3.導入後も業務プロセスの見直しと改善を継続する

入念に準備をして適合性の高いERPを導入できたとしても、プロジェクトが滞りなく進み、すべてが問題なく進むことはまずありません。システム稼働後にあらゆる問題点が浮き彫りになるのが通常です。
統合データベースの実装によって、システム運用や管理体制を根本的に見直す必要があるはずです。その変更に伴う問題がシステム運用後に判明次第、業務プロセスや管理体制を見直し、再度検証する必要が出てきます。
また、導入後にビジネス環境が変化することによって生じる問題も考えられます。
導入後もERPを最適に近い状態で運用できているか、定期的にチェックし、改善を継続することが大切です。

4. まとめ

ERP導入に成功した企業の多くは、入念な準備と基本的なポイントをしっかりと押さえています。
とくに、導入前から現場を含めた社員が一丸となって準備を進めることが大切です。
ERP導入成功のためにも、今回ご紹介した失敗例とポイントを参考に、チャレンジしてみてはいかがでしょうか。

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