
Contents
はじめに
製造業界において、効率的な生産と品質管理は企業の競争力を左右する重要な要素です。「世界の工場」が中国や東南アジアに移るにつれ製造業の競争は激しさを増し、コンマ数%レベルの効率アップや人件費を極限まで減らすために「作業員ゼロ」まで求められるようになりました。その中で、SCADA(Supervisory Control and Data Acquisition、監視制御およびデータ収集システム)は、生産プロセスの最適化とリアルタイムのデータ収集に大きな役割を果たしています。本記事では、大規模で複雑な製造ラインやインフラ監視を1つの端末で行えるSCADAについて詳しく解説します。
SCADAとは?
SCADAは、簡単に言えば「大きな施設やインフラを構成する装置・設備から得られる情報を、ネットワークを通して一カ所に集めて監視し、必要に応じて制御するシステム」です。センサーやアクチュエーターからのデータを収集し、それを基にリアルタイムで制御を行います。たとえば、それが生産施設であれば、SCADAは製造装置の作動状況、部材の数量、不具合品の数、進捗(しんちょく)状況などの情報を扱います。管理者はその情報をパソコンやタブレットなどの端末で確認した上で、必要に応じて装置を止めたり、速度を上げたり、パラメータ変更をしたりできます。
SCADAシステムは以下のような主要コンポーネントで構成されています:
1.HMI(ヒューマン・マシン・インターフェース):
オペレーターがシステムを監視・制御するためのインターフェース。
SCADAには、生産設備から収集した情報を入力する機能があります。機器を制御するシステムの情報の入り口であり、主に入力端末やセンサーなどの設備が入力を担当します。例えば、規模が大きな生産設備の場合、さまざまな場所にデータを取得するためのデバイスを設置してます。
また、従来では従業員が手入力により、各機器・設備の情報を手入力によりパソコンやタブレットに入力していました。近年ではIoT機器の発達により、従業員が各数値を直接入力する必要がなくなり、SCADAへ自動的にデータが送信され入力できるようになっています。
送信されたデータはPCやタブレットなどに情報を一括表示されます。
2.RTU(遠隔端末装置)およびPLC(プログラマブル・ロジック・コントローラ):
フィールド機器からのデータ収集と制御指示の実行。
SCADAには監視・制御機能を担うツールが搭載されています。そのことにより、入力によって収集されたデータを機械的・自動的に監視・制御します。このときの役割を担うツールは、PLC(Programmable Logic Controller/自動制御装置)とRTU(Remote Terminal Unit/遠隔監視制御装置)などです。
得られたデータはSCADAへ送信され、場合によっては制御装置の操作も行います。
3.通信インフラ:
データの転送を行うネットワーク。
SCADAはネットワークを活用して動くシステムであるため、その通信基盤としての役割・機能があります。この通信基盤としての機能では、SCADA内部の設備間の通信や、外部との通信を実現します。ただし、SCADAを活用する際には自社の規格に適した通信基盤のものを採用することが必要です。
また、近年では次世代の通信技術である5Gを活用できるようになっており、通信の遅延が許されない機器・設備の場合に利用すると良いでしょう。製造業では将来的に5Gによる通信回線が普及していくと考えており、SCADAを始めとする生産設備の効率化に大きく貢献します。
4.データサーバ:
データの収集・保存および処理を行う中央サーバ。
大量の監視対象に対して監視が行えるよう、データベースならびに監視モジュールを実装します。近年ではオープンソフトウェアであるZabbixなどの監視システムも登場しています。
日本でSCADAの普及が遅れている理由
SCADAは生産設備全体を制御できるシステムであり、海外では広く普及しているものの国内ではそこまで広く使われていません。なぜなら装置の状況をリアルタイムで確認しなければならないケースを除き、たいていのケースで「人が歩いて現場に赴き、数値を目で見てメモを取る」という形でも対応可能だからです。大規模な生産設備の場合であれば導入費用が大きくなることや、他にも制御系のシステムを活用しているケースが多い点も要因です。加えて、SCADAのほかにもこうした機器の監視制御を自動化する方法が存在しているのも理由の1つです。専用のハードウェアとプログラムを使用する「DCS(分散制御システム)」や小型のコンピューターのような制御装置「PLC(プログラマブルロジックコントローラ)」のみで運用されるケースもあります。 しかし、近年では省力化・自動化を進めるスマートファクトリーへの関心が高まっており、同時にSCADAも注目されつつあります。
日本におけるSCADA導入の具体例
1.自動車産業:
トヨタ自動車
導入背景:
トヨタ自動車は、「トヨタ生産方式(TPS)」で知られる世界的な自動車メーカーであり、効率的な生産と品質管理を重視しています。SCADAシステムの導入は、TPSの一環として、生産ラインの最適化とリアルタイムのデータ収集を実現するために行われました。
導入内容:
1.リアルタイム監視と制御:
・生産ラインに設置されたセンサーとPLCを通じて、各工程の稼働状況をリアルタイムで監視。
・不具合が発生した際には、即座にオペレーターにアラートが送られ、迅速な対応が可能。
2.データ収集と分析:
・各工程から収集されたデータは、中央のデータサーバに集約。
・データ分析を通じて、ボトルネックの特定やプロセス改善が図られる。
3.予防保全:
機器の稼働状況や振動データをモニタリングし、異常が検出される前にメンテナンスを実施。
これにより、ダウンタイムを最小限に抑え、生産効率を向上。
日産自動車
導入背景:
日産自動車は、グローバルに展開する自動車メーカーとして、品質管理と生産効率の向上を目指してSCADAシステムを導入しました。特に、異なる地域に分散した工場間の統合管理を強化することが目的です。
導入内容:
1.グローバル監視システム:
・日本国内および海外工場の生産ラインを統合的に監視。
・各工場からのデータを中央システムで集約し、グローバルな視点での生産管理を実現。
2.品質管理の強化:
・各生産工程のデータを詳細に分析し、品質管理の基準を厳格化。
・不良品の発生原因を特定し、プロセス改善を実施。
3.エネルギー管理:
・生産ラインのエネルギー消費量をリアルタイムで監視。
・エネルギー効率の最適化を図り、コスト削減と環境負荷の低減を実現。
ホンダ
導入背景:
ホンダは、多品種少量生産を特徴とする製造プロセスを持つ企業として、SCADAシステムを活用して柔軟な生産体制の構築を目指しています。
導入内容:
1.生産ラインの柔軟性向上:
・SCADAシステムを通じて、生産ラインの再構成が迅速に行えるように。
・製品変更やカスタムオーダーに対する迅速な対応が可能。
2.リアルタイム品質監視:
・生産工程ごとの品質データをリアルタイムで収集し、即時に分析。
・品質問題が発生した場合、原因を迅速に特定し、対策を講じる。
3.効率的な資材管理:
・生産に必要な資材の在庫状況をリアルタイムで監視。
・適切なタイミングでの補充を実施し、過剰在庫や欠品のリスクを低減。
2.半導体産業:
東京エレクトロン
導入背景:
東京エレクトロンは、世界的な半導体製造装置メーカーであり、高度な技術と品質管理を必要とする半導体製造プロセスにおいてSCADAシステムを導入しています。
導入内容:
1.クリーンルーム環境の監視:
・クリーンルームの温度、湿度、パーティクルカウントなどをリアルタイムで監視。
・環境条件の変化に即応し、製品の品質を維持。
2.製造装置の統合管理:
・各製造装置からのデータをSCADAシステムで一元管理。
・異常が発生した際には即時にアラートが送られ、迅速な対応が可能。
3.プロセスデータの収集と分析:
・製造プロセスにおける各工程のデータを収集し、分析。
・プロセスの最適化を行い、歩留まりを向上。
東芝デバイス&ストレージ
導入背景:
東芝デバイス&ストレージは、半導体メモリやストレージデバイスを製造する大手企業であり、製品の信頼性と生産効率を高めるためにSCADAシステムを導入しています。
導入内容:
1.設備の予防保全:
・設備の稼働状況や劣化状態をリアルタイムでモニタリング。
・定期的なメンテナンススケジュールを最適化し、設備の故障を未然に防止。
2.品質管理の強化:
・製造工程で収集されたデータを基に品質管理を行い、品質問題の早期発見と迅速な対応を実現。
・データ分析により、品質改善のためのフィードバックループを構築。
3.エネルギー管理:
・生産施設のエネルギー消費をリアルタイムで監視し、エネルギー効率を最適化。
・環境負荷の低減とコスト削減を実現。
ルネサスエレクトロニクス
導入背景:
ルネサスエレクトロニクスは、マイクロコントローラやアナログ半導体を製造する企業であり、生産ラインの効率化と品質向上のためにSCADAシステムを活用しています。
導入内容:
1.生産ラインの最適化:
・生産ラインの各工程をリアルタイムで監視し、効率的な生産を実現。
・異常検知機能により、迅速な対応が可能。
2.データ分析によるプロセス改善:
・各製造工程から収集されたデータを分析し、プロセスの改善点を特定。
・歩留まり向上や製品品質の向上を図る。
3.製造リソースの最適管理:
・原材料や部品の在庫状況をリアルタイムで管理し、適切なタイミングでの補充を実現。
・在庫コストの削減と供給チェーンの最適化を目指す。
3.装置産業:
オムロン
導入背景:
オムロンは、工業オートメーション、医療機器、電子部品などの製造装置を手掛ける企業であり、SCADAシステムを導入して生産設備の効率化と品質管理を強化しています。
導入内容:
1.生産ラインのリアルタイム監視:
・製造ラインの稼働状況、機器の状態をリアルタイムで監視。
・異常が検知されると、即時にオペレーターにアラートが送信され、迅速な対応が可能。
2.データ収集と分析:
・各製造装置からのデータを一元的に収集し、中央サーバに保存。
・データを分析して生産プロセスの最適化を図り、歩留まりを向上。
3.予防保全とメンテナンス:
・機器の稼働データを基に、故障予知と予防保全を実施。
・定期メンテナンスのスケジュールを最適化し、ダウンタイムを最小限に抑える。
ファナック
導入背景:
ファナックは、ロボットおよび数値制御装置(CNC)の製造で世界的に知られる企業であり、SCADAシステムを活用して生産ラインの効率化と品質向上を目指しています。
導入内容:
1.ロボットとCNCの統合管理:
・製造現場のロボットとCNC装置を統合的に監視・制御。
・各装置の稼働状況や生産データをリアルタイムで収集し、中央システムで分析。
2.生産性向上のためのデータ活用:
・データ分析によりボトルネックを特定し、生産プロセスの改善を実施。
・製造ラインの稼働率向上と生産コスト削減を実現。
3.リモート監視とメンテナンス:
・遠隔地からの監視とメンテナンスが可能なシステムを構築。
・迅速なトラブルシューティングとメンテナンスの効率化を実現。
横河電機
導入背景:
横河電機は、産業オートメーションおよび制御システムの分野で世界的に認知されており、SCADAシステムを導入して工場のオペレーションの最適化を図っています。
導入内容:
1.プラント全体の監視と制御:
・プラント内の全ての製造装置およびプロセスを一元的に監視。
・各工程のリアルタイムデータを収集し、効率的な運用をサポート。
2.エネルギー管理:
・プラントのエネルギー消費をリアルタイムで監視し、エネルギー効率の最適化を実現。
・エネルギーコストの削減と環境負荷の低減を図る。
3.異常検知と迅速な対応:
・SCADAシステムにより異常が即時に検知され、オペレーターにアラートが送信。
・異常発生時の迅速な対応が可能となり、ダウンタイムの削減に貢献。
日立製作所
導入背景:
日立製作所は、情報・通信システム、社会・産業システム、エレクトロニクスなど多岐にわたる製品を製造しており、SCADAシステムを活用して生産プロセスの最適化を目指しています。
導入内容:
1.統合プラットフォームの構築:
・複数の製造拠点を統合管理するためのSCADAシステムを導入。
・生産データの集中管理と分析を通じて、全体の生産性を向上。
2.品質管理の強化:
・製造工程ごとのデータをリアルタイムで収集し、品質管理の精度を高める。
・データに基づく品質改善策を迅速に実施。
3.プロセスの最適化:
・データ分析により、プロセスの効率化とコスト削減を実現。
・生産ラインの柔軟な再構成が可能となり、多品種少量生産に対応。
SCADA導入の利点
SCADAは複数の機能を併せ持ち、生産設備を適切に監視・制御・管理できるシステムです。そのため、SCADAを活用することにより、工場内のデータを収集・分析でき、既存のプロセスを改善しやすくなるでしょう。
SCADAシステムの導入には多くの利点があります。主な利点は以下の通りです:
1.リアルタイム監視:
SCADAの主な役割は、工場などの生産設備に存在するさまざまな機器をネットワークで接続し、センサーなどが取得したデータを集約することです。
生産プロセスのリアルタイム監視により、異常を早期に検知し、迅速な対応が可能です。データ収集と分析:膨大なデータを収集し、分析することで、プロセスの改善点を特定できます。また、活用するSCADAによってはアラート機能やセキュリティ機能を含むものがあり、より効率良く工場の設備を管理できます。
2.生産効率の向上:
プロセスの最適化により、生産効率が向上し、コスト削減につながります。工場内のデータを収集・分析することで、既存のプロセスを改善しやすくなるでしょう。
さらに、複数の機能を持ったシステムであることから、環境を開発するコストの削減にも役立ちます。
3.品質管理の強化:
データに基づいた品質管理により、不良品の発生を抑え、製品の信頼性を高めます。
機器のトラブルや不良品率を下げるためにも、SCADAが担う役割を押さえることが大切です。
導入の課題
一方で、SCADAシステムの導入にはいくつかの課題も存在します:
1.初期コスト:
導入にかかる初期費用が高額になることが多く、中小企業にとっては大きな負担です。
SCADAは工場全体に関わる規模が大きなシステムです。そのため、本格的にSCADAを導入する場合には、環境を整備するための費用が高額になりやすいです。SCADAを導入・構築する方法によっても、発生する費用は変わりますが、監視・制御の対象になる機器が10点程度の場合は、それまで通りの運用の方が、コストパフォーマンスが良いケースもあります。
2.サイバーセキュリティ:
制御システムとITシステムの違いは、ある程度セキュリティ対策が確立されているITシステムと異なり、制御システムのセキュリティ対策は技術的な面で遅れをとっている点です。
制御システムがインターネットに接続されることで、サイバー攻撃のリスクが増加します。そのため、セキュリティ対策が不可欠です。製造業の生産システムは、外部からの脅威への対策としてネットワークから切り離された環境を構築しているケースが多いためこのような環境では、安全性は高まるものの外部との連携が難しくなるケースがあります。そのため、SCADAを導入しても工場内のみでしか活用できず、本社機能がある別の場所では活用できない可能性があるでしょう。
このようなネットワークから切り離された環境が構築されている場合、SCADAを外部で利用するためには、生産システムの見直しが求められます。利用するシステムによって既存の環境と連携しやすかったり、機能拡張によって対応できたりするものがあるため、選定時に注意しましょう。
3.専門知識の必要性:
システムの運用・保守には専門的な知識が必要であり、人材の育成が求められます。
システム統合の難しさ:既存のシステムとの統合が難しく、導入プロセスが複雑になることがあります。SCADAはさまざまな機器のデータを収集できますが、特殊な機器の場合は通信が行えない可能性があります。このような場合では、別でプログラムを組み、連携用のアプリケーションを開発して接続する必要があります。
近年では、IoT機器の発達により対応するデバイスが増えているものの、特殊な機器を使っている場合は連携できないことがあるため注意が必要です 。
まとめ
SCADAは工場内のさまざまな機器の状況を可視化し、適切に制御できます。導入し、有効活用することによって、現状の課題が見えやすくなるだけでなく、トラブルや異常が発生しても迅速に対応できるでしょう。さらに、各種機器のデータを集約し一元管理することで、データ活用も加速します。SCADAシステムは、製造業において重要な役割を果たしており、効率的な生産と高品質な製品の提供を実現するための強力なツールです。日本においても、その導入が進んでおり、各産業での競争力向上に寄与しています。しかし、導入には初期コストやセキュリティ対策などの課題も伴います。企業はこれらの利点と課題を慎重に検討し、最適な導入戦略を立てることが重要です。今後も技術の進化とともに、SCADAシステムの導入がさらに広がり、製造業の競争力向上に寄与することが期待されます。