製造業におけるブロックチェーンの活用状況

世界中のあらゆる産業での利用が期待されているブロックチェーン。現在すでに、仮想通貨以外での活用例も増え始めています。製造業によるブロックチェーンへの世界的な支出は2020年に5億4,653万米ドルに達し、2026年までに16,243.22百万米ドルに達すると予想されており、2021年から2026年では76.26%のCAGRが予測されています。

金融サービス部門、ヘルスケア部門などの産業と比較すると、製造業でのブロックチェーン技術の採用はまだかなり低い状況ですが、これはブロックチェーン自体のテクノロジーサービスおよびソリューションに係る高いコストにより、製造部門へのブロックチェーンソリューションの浸透が遅れていることが原因と考えられます。

一方、製造業のなかでも特に大規模な事業者からのブロックチェーンソリューションの需要は急速に高まっています。原材料から材料の加工、製造品の供給と流通、販売時点の記録まで、製造業のあらゆる側面を記録することによって、まったく新しいビジネスモデルを作成できる可能性があるからです。

グローバル化した世界で消費者は、製品がどこから来たか、環境にやさしいか、公平なトレードを経ているか等に、より多くの関心を持つ傾向があります。

ブロックチェーンはそれ自体が持つ透明性によって、材料注文プロセスや製品品質を改善する可能性をもち、あらゆる製造業の基礎であるサプライチェーンに新たな価値をもたらす潜在性があります。

1.ブロックチェーンベースの製造の利点

ブロックチェーンが実現する分散元帳の実装は、集中型システムに比べていくつかの利点があります。集中型システムは、人的ミス、詐欺、そして記録の喪失に対して脆弱ですが、ブロックチェーンベースのソリューションは、以下に特化して設計されています。

・部品ごとの信憑性を担保したトレーサビリティ

・部品ごとの設計製造使用サイクルの完全な歴史(デジタルツイン)

・デジタルパスを介した安全なデータ転送

・デジタル著作権管理、ライセンス取引

・スマートコントラクトによるプロセスの自動化

ブロックチェーンがもたらすメリットとモノのインターネット(IoT)、機械学習などの他の技術を組み合わせることで、製造品目に関する完全なデータセットが完成します。

2.ブロックチェーンのユースケース:サプライチェーン

   製造業においては、ひとつの製品を作り上げるまでに非常に多くのサプライヤー(部品供給者)が絡むことになります。その部品の受け入れ検査や製品化後の問題発生時の所在確認において、部品の来歴を事細かに記録しておくことが重要です。さらに、証拠能力を持たせるためにはデータが改ざんされていないことを証明する必要があります。このことからサプライチェーンはブロックチェーンの特長を非常によく活かせるユースケースのひとつと考えられています。

流通業においても「食の安全性」に代表されるように、消費者の元に届くまでの食品トレーサビリティを確保することが重要になっています。ブロックチェーンにどの業者が何をしたのか流通の流れを全て記録し、消費者が必要な情報にアクセスして確認可能とすることで、透明性に優れた食の安全性を確保することが可能になります。

このように製造や流通において、各事業者がこれまで個別に保持していたデータベースをブロックチェーン化することで、データの完全性が保証された状態で共有・統合管理できるメリットが得られます。

・消費者のメリット

製造〜手元に届くまでが可視化され、安全性を確認できる

・販売店のメリット

サプライチェーンに関わる業者の偽装を防御

・製造業者のメリット

共有データベースによるコスト削減

※参考資料:株式会社電縁 ブロックチェーン構築事例「Rensa」ご紹介

IoTはブロックチェーンの課題を解決する手段として、近年大きく注目されています。その理由は、データの“入り口”となる入力作業がIoT機器により自動化されるからにほかなりません。

  例として、人間が品質検査データをシステムに入力する場合を考えてみましょう。

大手商用車メーカーでも起きた事例で、記憶に新しい読者も多いと思われますが、データ入力において、通常とは明らかに違う「漏れ値」や、あり得ない数値の「異常値」などは人間の“経験値”よって切り捨てて調整されるケースがあります。こうした行為が日常化し、母数不足となってしまうような検査基準を満たさない都合のよいデータしか見なくなるのがデータ改ざんの根源です。

こうした“改ざん”が世間に告知されると、メーカーとしての信頼の失墜と、出荷停止措置等により、甚大な損失を被ることになります。

  ブロックチェーンが保証するのは、あくまでもブロックチェーンに登録された情報です。入力された情報自体が間違っていれば、元も子もありません。現在はデータの中継者となる「人間の公正性(データを正しく入力したか)」を客観的に担保する仕組みがなく、その確認作業も人間が実施しています。

  しかし、データ入力の入り口をIoTにすれば、データは自動的に収集され、改ざんもできなくなります。つまり、人手による入力機会を排除することで、改ざん自体ができないようなシステムを構築できる可能性が高まります。
  とはいえ、現時点でIoT機器とブロックチェーンを連携させるには、鍵管理やキャパシティ管理など、高度な運用ノウハウが検討も含めて必要です。動作可能なプロダクトや実施可能な方法も限られているため、仮想通貨以外の用途におけるブロックチェーンの運用自体が実証実験の段階にとどまっているケースが殆どです。確実に機能しているかは今後の検証が必要であり、ソリューションの開発が進められている段階といえます。

4. まとめ

製造業のサプライチェーンは、数多の工程や企業を経て情報が流れていくため、そのトレーサビリティや透明性を確保できるブロックチェーンとは親和性が高いと言えます。

実際に商品を作り出す重要な役割を担っているこの分野にブロックチェーン技術を取り入れれば、信頼できる情報管理や追跡機能の強化、偽造品の防止、適切な在庫管理といった多くのメリットをもたらすことができるかもしれません。

まだ自社の生産に関する情報を電子化していない企業は、積極的にDX化を進め、時代の変化に対応できるように布石を打っておく必要があるのではないでしょうか。

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