従来型のERPは、企業の「会計業務」「人事業務」「販売業務」「生産業務」などの基幹となる業務を統合し、業務の効率化・情報の一元化を図るためのシステムでした。
情報の一元化によりメリットをもたらす半面、導入当初とのギャップや導入期間、運用の手間など従来型のERPにはデメリットもあり、ときには成長企業の負債になることも見受けられます。
一方、次世代ERPは、必ずしも一つのパッケージで全業務をカバーするのではなく、各領域で得意とされるシステムを採用する方法をとります。API連携を活用していろいろなサービスを疎結合します。
成長企業は既存システムが備えている機能にこだわらず、今後の成長戦略やリスクを見据えて柔軟かつ拡張性の高い「未来志向型の基幹システム」を求める声が大きくなっています。次世代ERPは「既存システムで何ができるか?」にこだわらず、新しい基幹システムが持つ機能にフォーカスして、適宜業務プロセスを変革することで柔軟性と拡張性の高い、新しいビジネスを創り出すことを目的としています。

1.次世代ERP導入のメリット

次世代ERP導入のメリットは、大きく2つあります。1つは「カスタマイズ・アドオン開発を最小化できることから、デジタルビジネスをはじめとした新たなトレンドや働き方改革に代表される就労環境の変化への対応が容易」ということ。
もう1つは、「トップダウン志向が向上し、ERP標準機能を使用することになるため、BPR(業務改革)の実現性が高まる」ということです。
特にカスタマイズ・アドオン開発を最小化できることは、企業にとって絶大なメリットがあります。ベンダーによるロックインや、重厚長大なERPにおける運用負担を回避することでコストを最小限に抑えて、ERP運用にかかる費用と負担を大幅に減少できます。

2. 次世代ERP導入のポイント

次世代ERPは、現状の業務プロセスをシステムに乗せることを重視した過去のERPと異なり、データを収集・分析して、ビジネスに還元する観点で導入すべきです。
あらゆるデータを蓄積する統合データベースを中心に構築し、AI分析、Iotによるデータ自動収集の仕組みを整え、RPAも活用した業務効率化で人材リソースを最適化する必要があります。クラウド型ERPを標準パッケージのまま使い、標準化ができない部分は、別に設けたサイロ化を容認するインターフェースからデータベースにつなぐ方策や、異なるERP間でデータを連携可能な形にするオープン・データ・モデルの構築も重要です。

3. 次世代ERPへの刷新

ERPの刷新はシステムを1から組み直す「再構築」と、機械的に単純移行する「コンバージョン」という2つのアプローチが一般的です。再構築方式は新規にシステムをつくり直すので、DX推進等はしやすくなりますが、コストも時間も膨大でリスクも大きい。コンバージョン方式はコストや時間を短縮できますが、従来のデータ構造や不要なデータも継承されてしまうので、次世代ERP機能を十分に生かしきれません。
現行ERPがコンパクトに作られていて、導入効果を最大化できていればコンバージョン。アドオンが多く、システムが複雑化・肥大化している場合はリビルド、というのが選択の目安となります。

4. 次世代ERPの先にあるEBC

ガートナーでは、次世代ERPの先にある未来のERP像として「エンタープライズビジネスケイパビリティー(EBC)」というコンセプトを打ち出しています。
これは「AI駆動、データ中心、コンシューマブル、人間の強化、イネーブリング、顧客指向という特徴を備えた新たな時代のERP像」であり、企業が必要とする機能や能力を担う複数のアプリケーションを組み合わせることで、変化に対して柔軟かつ俊敏に対応し、高いビジネス価値をもたらすことが期待されています。
EBCの特徴は次の通りです。

・AI駆動:人間の代わりにAIがプロセスを実行する

・データ中心:多くのアプリケーション、サービス、モノから取得されるデータを取り扱う

・コンシューマブル:コモディティー機能が安価なサービスとして提供される

・人間の強化:AIと自動化によって、人間が優れた成果を出せるようにサポートする

・イネーブリング:あらゆるデバイスでシームレスなユーザーエクスペリエンスを提供する

・顧客指向:顧客に対して差別化された製品/サービスを提供することに重点を置く

次世代ERPやEBCのような、ERPの新しいモデルが求められる背景には、ベンダーによるロックインや、重厚長大なERPにおける運用負担を回避する意図だけでなく、デジタルビジネスをはじめとした新たなトレンドや働き方改革に代表される就労環境の変化への対応があります。過度なカスタマイズを伴うオンプレミスのモノリシックなERPでは、コストがかさむことに加え、展開や機能変更に時間を要するため、もはやビジネスの求めるスピードに追随できなくなっている、とガートナーは分析しています。

5. まとめ

新たなシステムは、現場から反対されやすく、トップがもり立てることが重要です。
シンプルなERPを実現し、デジタル変革に対応できる組織は、スモールスタートして拡張、グローバルへの展開が速い特徴があります。
まずは、アセスメント、PoC(概念実証)を始めることが大事で、現状を可視化しシステムが変われば楽になると現場を説得し、経営を納得させる材料をそろえることが次世代ERP導入成功への第一歩です。

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