設計変更の真意、生産管理における設計変更とは何か

顧客要望に対して柔軟かつスムーズな対応が求められる現代において、企業が抱える課題のひとつが「設計変更」です。個別受注型(オーダーメイド型)の現場では、設計変更が頻発することも珍しくありません。特に生産管理の現場では、設計変更に対応するための負荷が大きくなりがち、という問題があります。

はたして、設計変更は「インシデント 」として扱うべきなのでしょうか。それとも、常あるものとして想定すべきなのでしょうか。生産管理における設計変更のあり方について解説します。

1.設計変更(設変)とは何か?

設計変更(設変)は、製品仕様の変更による設計図面や部品表(BOM)の変更を指す言葉です。冒頭でも述べたように、設計変更は生産管理の現場に対し、以下のような負担を強いることがあります。

  1. 設計部品表(設計BOM)に合わせて製造部品表(BOM)を再作成・登録する手間
  2. 実際の製造工程における影響範囲の把握に要する時間と労力

例えば、変更された設計部品表にある部品を、許可が下りた順に製造部品表に落とし込み、生産管理部門が手配をかける、という流れは珍しくないでしょう。このとき、前述の1や2のような作業が多数発生し、生産管理部門の業務を圧迫してしまう可能性があります。そのため、企業によっては設計変更を「例外的かつイレギュラーで、損失のものとなるもの=インシデント」と捉えているケースもあるようです。

しかし、近年のビジネス環境は、消費者や社会からの要請に対し、いかに柔軟かつ素早く対応できるかが重視されています。このようなビジネス環境の変化から、設計変更に対する考え方も変わっていく可能性が高いといえるでしょう。

2.設計変更が発生する理由とは?

では、なぜ設計変更が発生するのでしょうか。ここでは、設計変更が発生する理由について解説していきます。設計変更が発生する理由について、具体例や特徴で分類すると以下のようになります。

2-1.「問題解決」を理由とした設計変更

製品不具合の解消、顧客・消費者からのクレーム対応、図面および部品表の不具合解消など

特徴

「企業の社会的信用低下を軽減できる」という特徴があります。例えば、自動車はユーザーから不具合情報を受け付ける「リコール制度」が確立されています。リコールにいち早く対応し、早急に不具合を解決することは、自動車メーカーにとって「信用力を測るバロメーター」ともいえるでしょう。つまり、問題解決を理由とした設計変更では、スピードが重視されると言えるわけです。

2-2.「課題解決」を理由とした設計変更

VE活動(機能追加、機能改善、コストダウン)、顧客からの改善要求、部品に危険物質が含まれる場合の変更、サプライヤーからの改善提案など

特徴

課題対応型の設計変更は、「製品寿命や売れ行きを調整できる」という特徴があります。もちろん、設計変更のみでこれらを完全にコントロールできるわけではありません。

しかし、機能追加や機能改善の対応時期によって、製品の世代間ギャップが大きくなる可能性はあるでしょう。例えば、旧世代の製品に対して機能追加が早すぎれば、次世代の製品の販売数量が伸び悩む可能性は大きくなります。ある程度評価が確立されており、機能的にも充実している旧世代の製品を求める消費者が増えるからです。一方、機能追加・改善が遅すぎると、製品自体の競争力が低下し、製品寿命の低下につながるでしょう。

ちなみに設計変更は、理由の種類に関わらず「変更要求」と「変更指示」という2つの手続きで構成されます。また、この2つをつないでスムーズかつ的確な情報伝達により支えるのが「変更管理」です。設計変更は、「要求」「指示」「管理」が適切に機能してこそ成立する手続きだといえるでしょう。

3.生産管理部門は設計変更にどう向き合うべきか?

このように、設計変更は企業の社会的評価や業績に対し、一定以上の影響を与えうる手続きといえます。では、生産管理部門は設計変更に対してどう向き合うべきなのでしょうか。

生産管理部門には、社会や市場が要求する製品を、適切なタイミング・品質・量で提供するための計画・統制が求められます。具体的には、「品質管理」「生産量(納期)管理」「原価管理」の義務を負っていると言えます。また、これらをクリアするためにさまざまな部門と連携しながら、総合的な調整を行うことも重要です。設計変更は、この3つの「管理」に対して少なからず影響を与えるため、インシデントとして考えられがちなのです。

しかし、個別受注生産の現場において、設計変更が頻発することは珍しくありません。また、昨今のビジネストレンドから、「大量生産品よりも個別最適化された製品が評価される」という傾向が強まっています。つまり、設計変更は「レギュラー(通常かつ定期的な)な手続き」として向き合うほうがベターといえるでしょう。

設計変更をレギュラーな手続きにするためには、生産管理部門でもいくつかの工夫が必要だと考えられます。それは、以下のようなものです。

3-1.部門間の情報格差改善

設計部品表(設計BOM)、製造部品表(製造BOM)のほかに、「部門ごとの部品表(BOM)」ではなく、「統合部品表」を作成・管理して部門間の情報差異を無くします。統合部品表とは、ある部品表に対し、複数の関連部署が情報を追加して作成したものです。

3-2.システム間連携の見直し

設計BOMが配置されているPLMシステム(製品ライフサイクル管理システム)と、製造BOMが配置されているERPシステム(基幹情報システム)との連携を強化します。ベンダーが提供する、設計・製造BOM間の同期支援などを活用する、PLMシステム基準でERPの選定・改修を行うといった対策が考えられます。

3-3.PLMシステムの強化

PLMシステムを単なる成果物管理ツールとして考えず、「設計変更要求」「設計変更指示」「設計変更管理」を一貫できるようなプラットフォームへと強化します。また、「個別受注生産管理パッケージ」のように、業態や生産形態に特化したPLMシステムの導入も検討します。

3-4.変更情報の有効活用

設計変更前の情報を補完し、適宜設計変更後と比較しながら、コスト分析(材料原価や作業の増減)に役立てます。

IT活用によって情報格差改善・情報共有の促進が進めば、設計変更の負荷を大きく軽減できる可能性があります。特にPLMシステムやERPシステム、BIシステムなどの適切な導入・連携が鍵となりそうです。

4.まとめ

本稿では、設計変更の概要とその理由、生産管理部門における設計変更への向き合い方などを解説しました。設計変更は、生産管理部門に負担を強いる手続きであることは間違いないでしょう。しかし、設計変更に備えることは、昨今のビジネストレンドに即した行動ともいえます。企業の成長力強化の一環として、設計変更を見直してみてはいかがでしょうか。

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