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製造業において、製品を顧客に確実かつタイムリーに届ける「出荷業務」は、単なる物流作業ではなく、顧客満足や企業の信頼性を支える重要なプロセスです。しかし、現場ではさまざまな課題が山積しており、対応には限界があります。
こうした課題を解決する手段として注目されているのが「出荷管理システム」です。出荷管理システムは、出荷に関わる一連の業務――出荷指示の作成、在庫引当、ピッキング、検品、梱包、配送手配、出荷実績の記録――を一元的に管理・自動化する仕組みです。
本記事では、製造業における出荷管理システムに必要な機能を分かりやすく整理し、どのように業務効率や出荷精度を向上させるのかを解説します。
1.製造業の出荷業務における主な課題
製造業の出荷業務は、単なる“モノを出す”作業ではなく、受注・在庫・生産・配送など多くのプロセスと密接に連携しています。そのため、さまざまな課題が発生しやすく、業務の正確性とスピードの両立が求められます。
1. 多品種少量・短納期への対応
製品のバリエーションが増え、少量かつ迅速な出荷が求められる中、従来の紙やExcelベースの管理では対応しきれず、出荷ミスや遅延が頻発しています。
2. ロット・シリアル番号管理の煩雑さ
品質保証やトレーサビリティの観点から、ロットやシリアル単位での出荷履歴が求められますが、手作業では記録漏れや検索ミスのリスクが高まります。
3. 複数拠点・倉庫の在庫状況の把握が困難
製品が複数の工場・倉庫に分散している場合、それぞれの在庫状況をリアルタイムに管理できないと、誤出荷や無駄な在庫移動が発生します。
4. 顧客ごとの納品仕様への個別対応
ラベル表示、梱包形態、納品書の内容などが顧客によって異なる場合、それに手動で対応するのは非効率でミスも多くなります。
5. 業務の属人化と作業の標準化不足
出荷業務が熟練作業者に依存していると、担当者の不在時に業務が滞ったり、引き継ぎに時間がかかるリスクが生じます。
このような課題に対応するために導入される出荷管理システムは、単に作業をデジタル化するだけでなく、業務全体の流れを最適化・標準化し、精度とスピードを両立させる仕組みとして機能します。その主な目的は以下の3点です
• 正確で迅速な出荷を実現する
• 出荷ミスや納期遅れを防止する
• 業務の見える化・標準化を図る
これらの目的を達成するために、出荷管理システムにはさまざまな機能が搭載されています。
2.出荷管理システムに必要な主な機能
ここでは、製造業において特に必要とされる主な機能と、それぞれの役割について詳しく見ていきます。
1. 出荷指示・管理機能
製造・販売システムから受け取った出荷依頼に基づき、出荷作業の指示書を自動生成します。顧客別・商品別に出荷日や優先度を管理し、作業の抜け漏れを防ぎます。
• ポイント:複数拠点からの出荷計画にも対応できる柔軟性が求められます。
2. 在庫引当・引当優先順位の制御
リアルタイムの在庫情報に基づいて、出荷対象となる在庫を自動で引き当てます。ロットや製造日、出荷期限などを考慮した「先入れ先出し」や「指定ロット優先」などの条件付き引当にも対応。
• メリット:過剰在庫や出荷遅延を防ぎ、在庫回転率の向上につながります。
3. ピッキング指示・ロケーション管理
倉庫内でのピッキング作業を効率化するために、ロケーション(棚番・エリア)ごとにピッキングリストを自動生成。ピッキング順の最適化や、バーコード対応により作業時間と誤出荷のリスクを削減します。
• 補足:ハンディ端末やタブレットでの運用も可能だと現場負荷をさらに軽減できます。
4. 検品・バーコード照合機能
ピッキング後の製品を出荷前に再確認するため、バーコードやQRコードでスキャンし、指示データと一致しているかをチェックします。不一致時は警告を表示し、誤出荷を未然に防止します。
• メリット:属人性の排除と作業精度の大幅向上。
5. 梱包管理とラベル発行
出荷製品を梱包する際の箱サイズ、重量、混載条件などを管理し、適切な荷姿を自動判断。さらに、送り状や納品書、顧客指定のラベルなどを出力できる機能も備わっていると理想的です。
• ポイント:顧客ごとに異なる梱包仕様への対応も容易になります。
6. 配送手配・送り状発行
配送業者ごとの送り状レイアウトに対応し、必要な情報(住所、品名、個数、重量など)を自動で送り状に反映。宅配業者とのシステム連携(EDI/API)により、出荷処理と配送依頼を一体化できます。
• メリット:手作業による転記ミスの防止と、出荷処理の高速化。
7. 出荷実績の記録とトレーサビリティ
出荷した製品の情報(出荷日、数量、ロット番号、配送先など)を履歴として記録。万が一のクレーム対応やリコール時にも、迅速な出荷先特定と追跡が可能になります。
• 重要性:食品・医薬品・電子部品など、厳しいトレーサビリティ要件のある業種では不可欠。
8. マスタ管理と業務ルールの柔軟な設定
製品マスタ、顧客マスタ、出荷ルール(納品先ごとの出荷締切時間や配送業者指定など)をあらかじめ登録しておくことで、例外処理や人的判断を極力減らし、業務の標準化と安定運用が実現します。
これらの機能が有機的に連携することで、出荷業務の「正確さ」「スピード」「柔軟性」が飛躍的に向上します。出荷管理システムは、現場作業をサポートするだけでなく、業務の全体最適化・企業競争力の強化につながる基盤となるのです。
3.製造業ならではのニーズに対応する機能
製造業の出荷管理は、他業種と比較して非常に多様かつ複雑な要件を抱えています。これは、製品の種類や製造工程の特性、さらには顧客ごとの細かなカスタマイズ要求などが絡み合うためです。そのため、出荷管理システムにも製造業特有の業務要件をしっかりとサポートする機能が不可欠となります。
具体的には以下のようなニーズに対応することが求められます。
1. ロット・シリアル管理:製品単位でのトレーサビリティ確保
製造ロットやシリアル番号単位での管理により、製品の製造履歴や出荷履歴を正確に追跡できます。これは品質管理やリコール対応、法規制遵守において極めて重要です。
2. 製造指図との連携:製造完了品を即時出荷へ連携
製造工程で完了した製品情報をリアルタイムで出荷管理システムに連携し、出荷準備をスムーズに開始。これにより製品の滞留を防ぎ、リードタイムの短縮につながります。
3. 複数拠点対応:複数の工場や倉庫からの出荷調整
国内外に点在する複数の製造拠点や物流拠点からの出荷を一元管理。拠点ごとの在庫状況や出荷計画を統合し、最適な配送ルートや出荷先を自動選択します。
4. 部品単位の出荷管理:組立品やサービス部品の管理も対象
完成品だけでなく、製造やメンテナンスに必要な部品単位での出荷管理が可能。これにより、組立ラインの部品供給やアフターサービスの効率化が図れます。
5. カスタマイズ対応出荷:顧客ごとに異なる仕様への柔軟対応
製造業では顧客や案件ごとに仕様や梱包方法が異なるケースが多いため、個別仕様に合わせた出荷指示やラベル印刷、梱包指示ができる柔軟なシステム設計が求められます。
このように、製造業の出荷管理システムは単なる物流管理を超え、製造工程や品質管理、顧客対応など多面的な業務を統合的に支援する役割を果たします。
したがって、これらの特有ニーズに対応した機能が充実していることが、製造業向け出荷管理システム選定の重要なポイントとなります。
■ 具体的な製品例
製品名 | 主な機能 | 対応業種 | 特徴・強み |
SAP S/4HANA | 統合型ERP、リアルタイム在庫管理 | 大規模製造業 | 高度なカスタマイズ性、グローバル対応 |
Oracle NetSuite | クラウドERP、出荷・在庫管理機能 | 中堅製造業 | 柔軟なクラウド対応、スケーラビリティ |
Microsoft Dynamics 365 | 出荷・在庫管理、AI分析機能 | 中堅製造業 | Microsoft製品との親和性、AI機能搭載 |
PRONES | マルチテナント対応ERP 生産管理(出荷管理含む) 機能 | 中堅製造業 | テンプレート対応型ERP 中堅市場ERPシェアNO1. |
GRANDIT | 日本語最適化ERP、出荷管理機能 | 中小製造業 | 国産ERP、業務適応力の高さ |
■ 実際の導入事例
1. PRONES(アイ・オーシステムインテグレーション)
導入企業:
株式会社多摩川電子
業種:
通信用機器、電子応用機器メーカー導入システム:
「GLOVIA smart PRONES 製造業向け生産管理システム」
導入前の課題:
• レガシーシステムの設計思想が古く、業務効率を向上させるような支援システムでは無くなっていた。
• 設計、生産管理の部門間情報連携が出来ておらず、欲しい情報の取得に時間がかかっていた。
• 出荷管理がシステム化されておらず、誤出荷が発生していた。
導入後の効果:
• 最新のアーキテクチャーにより、レスポンスとデータの連携性が飛躍的に向上した。
• BOM連携の実現により部門間の情報連携が向上し、残業時間削減につながった。
• 出荷管理システムの実装により、在庫精度と出荷品質が向上した。
https://www.iosi.co.jp/casestudy/tmele/
2. スーパーカクテルデュオFOODs(内田洋行ITソリューションズ)
導入企業:
株式会社内田洋行ITソリューションズ
業種:
パン製造業
導入システム:
「スーパーカクテルデュオFOODs 販売・生産」
導入前の課題:
• 本社と工場間の製造依頼や納期回答のやりとりをFAXで行っており、伝達ミスが生じていた。
• 原料・資材の在庫は月2回の棚卸時しか把握できず、発注業務も現場任せで属人化していた。
• 出荷ロット(賞味期限)は紙で管理しており、ロット逆転などの出荷ミスが発生していた。
導入後の効果:
• 本社と工場の情報共有システムを構築し、伝達ミスによる販売機会損失を防止。さらに、ペーパーレス化によりコストを1/2に削減。
• 生産計画に基づく原料・資材の所要量と在庫推移を見える化し、適正発注を実現。
• 得意先別の出荷ロット管理の精度向上により、出荷ミスを削減。
https://www.uchida-it.co.jp/case/18004/?utm_source=chatgpt.com
3. FutureStage(システム幹事)
導入企業:
株式会社藤井合金製作所
業種:
ガス栓製造業
導入システム:
「FutureStage 製造業向け生産管理システム」
導入前の課題:
• システム内のデータを自由に取り出せず、業務効率が低下していた。
• 自社内外の情報システムと連携できず、データの一元管理ができていなかった。
• 処理レスポンスが遅く、業務のスピードが低下していた。
導入後の効果:
• システム内部に一元管理されたデータをユーザーが自由に出力できるようになり、資料作成が2日から半日に短縮。
• EDI(電子化された文書をインターネットなどでやり取りすること)の受注では、従来の1日かかっていた処理を数分で完了できるようになった。
https://system-kanji.com/posts/production-management-system-case?utm_source=chatgpt.com
4. mcframe 7(システム幹事)
導入企業:
シチズン・システムズ株式会社
業種:
機器メーカー
導入システム:
「mcframe 7」
導入前の課題:
• 工場側の生産計画や在庫状況を本社からタイムリーに参照できなかった。
• 顧客からの注文変更や需要変動に対し、迅速に対応できなかった。
導入後の効果:
• データの抽出・集計の仕組みを整備し、売上情報や業績目標管理情報の抽出作業を短縮。
• 本社と工場の双方で同じシステムを共有できるようになり、データ受渡し業務を削減。
https://system-kanji.com/posts/sales-management-system-case?utm_source=chatgpt.com
■ 導入にあたってのポイント・注意点
ここでは、出荷管理システムを製造業に導入する際に押さえておきたいポイントや、成功させるための注意点を解説します。
たとえば、
• 既存システムとの連携
ERPや生産管理システムとのデータ連携の重要性
• 現場の業務フローの把握と改善提案
形だけのシステム導入にならないために、現場の実態を正しく理解すること
• カスタマイズの範囲とコスト管理
製造業特有の要件に対応しつつ、コストバランスを保つポイント
• 社員教育と運用体制の整備
システムを使いこなすための人材育成と役割分担
こうしたポイントを踏まえることで、システム導入後のトラブルを減らし、最大限の効果を引き出せます。
4.分析・可視化機能による改善
現代の出荷管理システムには、単に作業を管理するだけでなく、業務の課題を発見し、継続的な改善につなげるための分析・可視化機能が不可欠です。製造業における出荷業務は多くのプロセスが絡み合っているため、どこにボトルネックやミスの原因があるのかを明確に把握することが、効率化の第一歩となります。
具体的には、以下のような分析項目が重要視されます。
1. 出荷遅延の発生件数と原因分析
どの工程やどの製品で遅延が頻発しているのか、また遅延の背景にある要因(在庫不足、人手不足、配送業者の問題など)を詳細に分析。これにより、対策の優先順位を明確にし、遅延防止に役立てられます。
2. 出荷精度(誤出荷率)の集計
誤出荷や数量不足、誤梱包といったミスの発生率を定量的に把握。発生頻度や傾向を把握することで、現場教育の強化やシステム改善の効果を測定できます。
3. 出荷リードタイムの短縮状況の見える化
受注から出荷までにかかる時間を定期的にモニタリング。どの工程が時間を要しているか、季節変動や製品別の差異を把握し、リードタイム短縮に向けた具体的な施策立案を支援します。
こうした分析結果はダッシュボードやグラフなどで視覚的に分かりやすく表示され、管理者や現場担当者が即座に状況を把握できるようになります。これにより、問題発生時の早期対応だけでなく、長期的な業務改善のPDCAサイクルを効率的に回すことが可能になります。
製造業の厳しい品質管理や納期要求に応えるためには、こうした「見える化」と「分析」が業務の質を底上げし、競争力強化につながる重要な要素となっているのです。
5.今後のトレンドと出荷管理システムの進化
製造業の出荷管理システムは、技術革新とともに日々進化しています。今後注目されるトレンドを押さえることで、より効率的で柔軟な出荷業務を実現し、競争力の強化につなげられます。
1. IoTやセンサー連携によるリアルタイム在庫・物流管理
IoT技術の導入により、倉庫内の製品や輸送中の貨物の状況をリアルタイムで把握できるようになっています。RFIDタグやセンサーが設置されたパレットや箱を通じて、位置情報や温度・湿度などの環境情報を常時監視。これにより、在庫の正確な把握や異常検知が可能となり、誤出荷や品質劣化のリスクを低減します。
2. AI・機械学習を活用した需要予測や異常検知
膨大な過去の出荷データや市場動向をAIが分析することで、需要の変動を高精度に予測。これにより、適正な在庫量の維持や製造スケジュールの最適化が進みます。また、異常検知機能により、通常とは異なる出荷パターンやミスの兆候を早期に察知し、トラブル発生前の対策が可能です。
3. クラウド化やモバイル対応で現場の利便性向上
クラウドベースの出荷管理システムは、社内外どこからでもアクセス可能で、複数拠点や外注先とのリアルタイムな情報共有を実現します。さらに、スマートフォンやタブレット対応により、現場作業者はバーコードスキャンやピッキング指示をその場で確認・入力でき、作業効率と正確性が大幅に向上します。
4. ロボティクス・自動倉庫との連携
自動倉庫システムやピッキングロボットと出荷管理システムを連携させることで、人手作業の負担軽減と作業速度の飛躍的な向上が可能です。特に大量の小物部品や多品種少量生産の現場で効果を発揮し、出荷ミスの削減やリードタイム短縮につながります。
5. サステナビリティを意識した物流最適化
環境負荷の低減が企業の社会的責任となる中、出荷管理システムも物流のサステナビリティに貢献しています。配送ルートの最適化や積載効率の改善によるCO2削減、梱包資材の最適化による廃棄物削減など、環境配慮を組み込んだ機能が今後ますます重要視されます。
これらの先進技術を取り入れることで、製造業の出荷管理はよりスマートかつ持続可能なものへと進化し、グローバルな競争環境での優位性獲得に貢献していくでしょう。
6.まとめ
出荷管理システムは、単なる出荷作業の効率化ツールではなく、製造業の信頼性を支えるインフラの一つです。正確で迅速な出荷を実現するために、業務フローに合った機能を備えたシステムを選定・構築することが重要です。
特にロット管理やトレーサビリティなど、製造業特有の要件に対応できるかが、システム選定の鍵となります。出荷の精度を高めたい、納期遵守率を向上させたいと考えている企業様は、ぜひ自社の業務にフィットする出荷管理システムの導入をご検討ください。