製造業におけるAIの活用事例

少子高齢化に伴う生産年齢人口のさらなる減少に対応すべく、製造企業では限られた人員で生産性や生産量を維持・向上していくために属人化からの脱却や業務の効率化を目指す動きが広がりつつあります。そして、その具体的な手段の1つがAI(Artificial Intelligence/人工知能)やIoTをはじめとしたデジタル技術の活用です。
今回の記事では、特にIT活用が遅れている中小企業向けに、国内外の様々なメーカーにおけるAIの活用事例を紹介し、製造業でのAI活用の可能性を考察します。

1.製造業の課題

日本の製造業は、国家を支える重要な産業で、経済や日本人の特性に合致した「ものづくり」を通じて日本という国が成長してきたと言っても過言ではありません。
そんな重要な産業である製造業は今大きな転換点を迎えており、手作業やペーパー中心の業務のデジタル化をはじめ、新たな事業の在り方を模索し実装していくDX(デジタルトランスフォーメーション)の必要性に迫られています。
海外製造業と比較すると国内のIT活用は遅れていると言われています。
日本でもAIの活用やIoT技術を導入する必要が求められています。
製造業の抱える課題として大きく以下3つが挙げられます。

1-1. 人材不足と技術継承への対応

少子高齢化に伴い人手不足になっています。若手の人材が減少傾向にあるため、人材の採用困難に繋がっています。
労働人口減による新規採用の困難化、マンパワー不足への対応が喫緊の課題になりつつあります。
また、日本の製造業の技術力を支えてきた職人の高齢化が進んでおり、先述の人材不足も相まって技術継承ができていない現状もあります。製造業では、世界に誇る高い技術力が途絶えてしまわないよう、継承の方法を構築することが求められています。

1-2. IT活用の遅れ

海外製造業と比較すると国内のIT活用が遅れていることが挙げられます。
米国の「インダストリアル・インターネット・コンソーシアム(IIC)」やフランスの「産業の未来 (l’Industrie du Futur)」、ドイツの「インダストリー4.0」や、中国の「中国製造2025」など、世界では製造業の国家戦略プロジェクトが進められています。
これは、製造業におけるコンピュータの活用に重点を置いており、AIやIoT、ビッグデータなどのIT技術を積極的に取り入れて、製造業を改革することを目指しています。
世界の製造業は新しいIT技術を活用して新しい経済価値を創出しようとしています。
日本では2017年に掲げた「Connected Industries」がありますが、標準化の整備やデジタル化そのものが進んでおらず、世界の流れに乗るどころか、IT技術の活用さえ遅れているのが実情です。
最新のITを活用した設備への切り替えが進まない理由としては、IT化を進めるコストの確保が難しいことや、IT化によって実現できる生産性向上などの効果が理解できていないこと、IT化を進めても使いこなせる技術者がいないことなどが考えられます。
日本でもAIの活用やIoT技術を導入する必要が求められています。

1-3.設備のIT化

政府がIT化推進に向けて方針を掲げている一方、国内製造業界ではIT化に消極的で後れをとっている企業があるのも事実です。
製造業における設備投資の傾向は2019年から横ばい状況が続いており、老朽化した設備の最新化や既存設備のデジタル化対応が進んでいません。デジタル化できない設備を使い続けているため、前項で述べたIT活用も遅れることになります。
特にコストの問題や技術者不足の問題から中小企業ではIT活用が遅れる傾向にありますが、中小企業こそ人材不足に備えて社内の情報をデータ化し、後継者になるべく簡単に伝えられるようにしなければなりません。
設備投資にはコストがかかるため、最新設備の導入に捉われず、既存の設備に新たなセンサーを組込む等の方法で設備投資を抑制し、リターンの大きい設備に転換することが重要になってきます。

2.製造業でのAI活用事例4選

今回は経済産業省が公開している情報から、中小企業でのAI活用事例を4つ紹介します。

2-1. 需要予測

事例:城南電機工業 (製造業) 受注先の内示数と実績に基づく受注数量予測

企業情報
 事業概要 自動車用照明機器類、樹脂成形の製造及び販売他
 所在地 静岡県静岡市 設立 1959年 従業員数 120名
 社名 城南電機工業

概要
 実施内容 納品数の予測モデルを構築する事で、納入予測における「納入数精度向上によるコスト削減」、「業務効率化」を図った

テーマ
 受注先の内示数と実績に基づく受注数量の予測

実施効果
 全体としての予測精度は大きく改善
 • 製品により、改善幅は異なるものの、改善幅が大きいもので誤差率52%から24%に改善

企業からのコメント
 • 短期間かつ現場に来れない環境下で、ここまでの予測精度となり感動している (社長)
 • モノづくりをしている中小企業として、未来に希望を感じる成果だったと感じている (次長)

課題内容
 客先から事前にもらう発注内示数と最終的な納入数に差異があることで余剰在庫や欠品リスクが発生していたため、AIで精度向上を図る

目指す姿
 納入数精度向上によるコスト削減 業務効率化

インプットデータ(業務実績)
 製品毎の受注情報 製品毎の発注予告数 (内示)

AIモデル
 納入実績及び内示情報をベースに学習

アウトプット
 製品毎/月毎の受注見込み

AIモデルの概要
 AIモデルは、高い予測精度が期待できるLightGBMを採用
 • マイクロソフトよりリリースされた勾配ブースティングのフレームワーク
 • 他の機械学習の手法と比較しても短時間で計算が可能
 • 精度の高さから、世界のデータサイエンティストが競うKaggleでも採用事例多数  

PoCの結果
 4つのAIの予測値とA月内示数のうち、過去1年間の予測精度が良いものを選別することで予測の精度が安定
 • 改善幅が大きいもので誤差率52%から24%に改善
 • 悪化しているもので誤差率30%から31%に悪化
 – 悪化しているものについてはAI不使用

2-2. 需要予測および発注業務の工数削減

事例:石原金属化工 (製造業) 需要予測および発注業務の工数削減

企業情報
 事業概要 ケーブル等の機械部品製造/卸売事業
 所在地 東京都江戸川区 設立 1882年 従業員数 40名 
 社名 石原金属化工    

概要
 3カ月先までの内示情報および実績値を基にした需要予測の実施および、発注業務の効率化

テーマ
 需要予測および発注業務の工数削減

実施効果
 発注のタイミングの予測を自動化した事で、担当者の発注業務の時間を削減した他、属人性を排除

企業からのコメント
 • 今回の取り組みは目から鱗であり、ここまでできるものなのかと、素直にすごいなと思った。今後は今回対象の商品だけでなく、他の商品にも展開し
 ていきたい。(社長)
 • 今回、年末年始も挟んでいたため、実質1カ月程度だったと思っている。3か月あればより情報提供と認識のすり合わせができ、更なる成果が期待でき  
 たと思う。(担当者)

課題内容
 海外から調達した製品の販売(発注業務)に課題感を感じており、AI等を活用することで業務改善を図る

目指す姿
 属人性の排除 平均在庫数、安全在庫数可視化 内示情報による受注予測を精緻化
 製品毎リードタイムの差を発注タイミングの調整で対応

インプットデータ
 出荷実績値 客先の内示情報

AIモデル
 受注実績と内示情報をベースに学習

アウトプット
 製品毎/月毎の受注見込み

AIモデルの概要
 過去実績の各種情報をインプットデータとして使用し、Prophetを用いて翌年の需要を予測
 • ProphetはFacebook社開発、時系列予測が得意であり、非線形な変化にも対応

PoCの結果
 情報量が不十分であった結果、精度が十分ではなかったため、AIが予測する数値をそのまま使うのではなく、予測の補助として使用する運用を想定(今後
 AIに様々なデータを投入すれば、精度は改善する見込み)
 • 内部出荷データ、商品特性データ、客先特性データ、外部データのうち内部出荷データのみを使用

2-3. 加工図面からの自動見積り

事例:プラポート (製造業) 加工図面からの自動見積もりの作成

企業情報
 プラスチック精密機械加工、他
 静岡県静岡市 設立 1990年 従業員数 100名
 社名 プラポート

概要
 現在、担当営業担当者が行っている見積り作業をAIで自動化する事で、属人化の解消および見積り回答時間の短縮を実現 テーマ
 加工図面からの自動見積り

実施効果
 見積り作業の属人化解消と、見積り回答時間の短縮を見込む
 • アシスタントなどの担当営業以外も、算出可能
 • 回答時間が1時間→20分程度まで短縮可能

企業からのコメント
 弊社の業務を理解した上で、複雑な計算処理もAIモデルに入れ込んでいただいており、実践で使えるAIモデルになっている 目指す姿
 見積り作業の属人化解消 見積り回答時間の短縮 (最終的に)発注件数増加による売上拡大

インプットデータ
 図面データ 穴数 材質 寸法(手入力)

AIモデル
 過去の見積り結果をベースに学習

アウトプット
 図面毎の見積り金額

AIモデルの概要
 見積りマトリクスを利用し、従来の見積り算出ロジックではなく、AIモデル構築にあわせ考案した新規の計算ロジックで見積りを算出

PoCの結果
 効果1: 担当営業以外でも見積りが可能な仕組みを構築
 • 担当営業の見積り業務を削減した事で、新規顧客開拓等の営業活動を拡大する事が可能となった
 – 図面から読み取りが難しい加工難易度の判定にAIを利用することで、自動で見積り金額を算出することが可能となった
 – 図面を受領するアシスタントでも見積りが可能
 – 担当営業の見積り時間の削減により、浮いた時間を新規顧客開拓等のさらなる営業活動に当てることが可能
 効果2: 図面受領から見積り金額回答までの時間を大幅短縮
 – およそ5分程度で見積り金額を算出可能
 – 受領から見積り送付までの時間も、現在の1時間から20分程度に短縮可能

2-4. 工数予測/工数最適化

事例:水上印刷 (製造業) 生産加工の作業時間予測による工数最適化

企業情報
 事業概要 印刷製造、ビジネス・プロセス・アウトソーシング、他
 所在地 東京都新宿区 設立1946年 正社員数 240名
 社名 水上印刷

概要
 生産部門が日々の予定組みの際に行う、作業工数予測の精緻化と効率化

テーマ
 作業工数の自動予測による業務効率化

実施効果
 対象マシン①、②の合計で180時間/月の作業工数予測の精度向上を見込む
 • マシン① : 誤差改善15分/件×作業件数180件/月=45時間/月
 • マシン② : 誤差改善10分/件×作業件数800件/月=135時間/月企業からのコメント
 • 工数の予測精度が上がることで、現場の稼働率をあげることができる。利益を生み出す上で重要な点であり、経営上のインパクトを見込める (社長)

課題内容
 生産部門が取組む日々の予定組み (工数予測) に課題感を感じており、AI等を活用することで業務改善を図る

目指す姿
 工数予測の緻密化 工数予測の効率化

インプットデータ(業務実績)
 数量 加工材料 作業月

AIモデル
 業務実績をベースに学習

アウトプット
 マシン毎の作業工数予測値

AIモデルの概要
 AIモデルは、近年のデータ分析コンペでも、特に精度が認められている、高性能のアルゴリズムを使用

PoCの結果
 AIモデルが予測した工数精度は、従来誤差を大きく下回る予測誤差となり、有効性を示せた

3. まとめ

今回ご紹介した中小企業での活用事例のように、AIは製造企業を取り巻く様々な課題の解決につながる可能性を秘めています。そしてその成功のためには、「AIを導入する目的」「AIを導入してどんなことをしたいのか」を明確に描くことが大変に重要です。
今後はAIやIoTといった最新動向に注目しながら、効果的なIT活用を検討してみては如何でしょうか。

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